飛行の日常に潜む心の試練
機長の座と自信喪失:飛行の日常に潜む心の試練
機長としての資格を維持するには、年に一度の路線チェックフライト、シュミレーターでの技量審査、低視程での着陸審査など、多くの試験を受ける必要があります。これらは私たちパイロットにとって職務の一部であり、専門職としての資質を証明するもの。問題がなければ心安らぐものですが、一度失敗するとその影は私たちの心に深く刻まれます。
私の飛行経歴は、多くの機長たちとは異なる道を歩んできました。航空大学校を卒業した後、ソニー商事株式会社での営業経験、ヘリコプターの免許取得を経て、東亜国内航空のヘリコプター部門での取材業務に従事。その後、同社の路線機の運航に関わるようになったのです。この異色の背景が、意外な自信喪失の原因となることを、私は想像すらしていませんでした。
機長になると、その立場にある者ならば共感するであろう孤独を感じるものです。日々の運航中、自分の判断を信じること、自らを客観的に見つめ直すことが求められます。私の場合、取材飛行の経験は豊富であったが、大勢の乗客を乗せた商業フライトの経験は乏しく、そこからくるプレッシャーに自らの運航判断に対する疑念を抱くようになったのです。
そして、初めての年次審査の日が来た。東京ー出雲往復。普段の私は効率的な判断で積極的に着陸をするタイプだったのですが、その日は他者の評価を意識しすぎ、「完璧」を求めた結果、慎重に過ぎる進入を選択。結果として評価者から「いつも、あんなにゆっくりとした進入をしているのか?」と指摘され、私の自信は崩壊しました。
その言葉以降、心は緊張と自己非難でいっぱいとなりました。どんな些細な言葉や行動も、私の中では自分への非難として捉えられてしまいました。
そして、その影響での羽田への大きな着陸ミスへと繋がってしまったのです。