ドンドン深みへ
羽田ー出雲の往復フライトの帰り、私は行きのフライトで査察操縦士から受けた指摘が気になって仕方がありませんでした。お前はダメなんだよと言われているみたいで、なんとかその印象を変えて優秀な夏だと思われたいと思っていたのでした。その結果、余裕のない飛行となり、さらに悪い評価となることになったのです。
羽田空港は常に交通量が多く、航空管制の指示を守って、上空の風の状態や他の便の動きも考慮しながら飛行する必要があります。通常は大島上空を約5000メートルくらいの高さで通過し、そこから房総半島を迂回する飛行パスが取られます。しかし、この日はトラフィックが通常よりも少なく、誘導もいつもより内側を通るように誘導されたのでした。
いつもよりよりうまいところ見せようと、いつもより高めに進入を始めました。現在の旅客機は、滑空性能が高く、速度を遅くするためには、抵抗となるものを出すか、降下させずに速度のエネルギーを高度の維持に使い、速度を落とす必要があります。そのために前の機体との間隔を調整するために、遅い速度を指示されると、高度を維持して速度を落とす必要があります。
北から進入機を私の前に入れる必要があって、私への速度を落とす指示がどんどんきてしまいました。そのために当初予定した高度よりどんどん高めに高度になって、計画通りの飛行が困難となってしまいました。
羽田空港に着陸するためには、木更津上空を約900メートルの高さで通過する規則があり、これを満たさなければ進入をやり直し、審査にも不合格となります。
途中で、絶対に守れないことがわかり、ランディングギヤや、スラットなど使えるものは全部使って、なんとかそのリミテーションを守ことができました。
当然、通常のオペレーションから全く外れているので、横の査察操縦士からの何やってんだよ〜というオーラはビシビシ伝わってきました。
私自身も焦りが感じるオーラが溢れ出し、声のトーンも変わっていました。私はまったく余裕のない操縦をしていたのです。
木更津を規定の高度で通過し、速度の調整もなんとか規定の範囲に入りました。気流の悪い横風と追い風の影響で、前の飛行機が滑走路の端まで進んでしまい、私への着陸許可を受け取る時期が、着陸をやり直さなければいけない
、タイミングに近づいてもまだ出ない状況になってしまいました。
私の心の中で、「早く滑走路を出てくれ!」と叫んでいました。ギリギリのタイミングで、着陸許可が出て、何とか無事に着陸を果たしました。
しかし、ブリーフィングの時間には、私のフライトプランニングのミスが指摘され、「要フォロー」という審査結果が下されました。
なんであんなことをしてしまったのだろう?なんであのような精神状態になったのか?なんであの時気づいてやめなかったのか?なんで、なんでという思いが込み上げてきました。
夜中に思い出して飛び起きる日も何日も続きました。